攻めと守りの財務戦略:中小企業が知っておくべき資金調達と税務のポイント
中小企業の経営において、財務は単なる「帳簿付け」ではありません。資金をどのように調達し、どのように投資し、そして税制優遇を最大限に活用してキャッシュフローを残すかという戦略そのものです。今回は、近年の税制改正や会計基準の動向を踏まえ、中小企業が採るべき財務戦略について解説します。
1. 銀行借入だけに頼らない「多様な資金調達」
多くの経営者が資金調達=銀行借入と考えがちですが、財務体質を強化し、柔軟な経営を行うためには他の選択肢も知っておく必要があります。
■ 少人数私募債(縁故債)の活用 銀行の貸し渋り対策や、長期安定資金の確保として有効なのが「少人数私募債」です。これは、役員、社員、取引先など、会社と関係の深い特定の少人数(50名未満)に対して社債を発行する手法です。
• メリット: 担保が不要で、金融機関のような煩雑な審査がなく、発行手続きが比較的簡単です。
• 税務メリット: 社債購入者(債権者)にとっても、受け取る利息は20%(所得税+住民税)の源泉分離課税で済むため、高額所得の役員などが会社に資金を貸し付ける(雑所得として総合課税される)よりも節税になる場合があります。
■ 種類株式による資本増強 ベンチャーキャピタルからの出資受け入れや事業承継の場面では「種類株式」が有効です。普通株式とは異なる権利(配当優先、議決権制限、拒否権など)を付与した株式を発行することで、経営権を維持したまま資金調達を行ったり、後継者に経営権を集中させたりすることが可能です,。
■ 財務体質の改善:DES(デット・エクイティ・スワップ) 過剰債務に悩む企業にとって、借入金(デット)を資本金(エクイティ)に振り替えるDESは、財務改善の切り札となります。借入金が消え資本が増えるため、自己資本比率が向上し、利払い負担も軽減されます,。
2. キャッシュフローを最大化する「攻めの税制活用」
利益が出た際に単に税金を払うのではなく、国の施策に沿った投資を行うことで税負担を減らし、将来の成長につなげることができます。
■ 中小企業経営強化税制(即時償却・税額控除) 生産性向上設備やデジタル化設備(テレワーク用設備含む)などを取得し、認定を受けた場合、取得価額の100%を即時償却(経費化)するか、取得価額の10%(または7%)を法人税から控除できる制度です,。 特に即時償却は、当期の税金を大幅に圧縮し、手元資金を温存する効果があります。
■ 賃上げ促進税制(赤字でもメリットあり) 従業員の給与を前年度より一定以上アップさせた場合、増加額の一部を法人税から控除できます。令和6年度の改正により、中小企業向けには**「5年間の繰越控除措置」**が新設されました。これにより、赤字決算で当期の法人税がゼロであっても、控除枠を翌年度以降(黒字化した年度)に持ち越して使えるようになり、赤字企業の賃上げも強力に後押しされることになりました,。
3. 中小企業ならではの「会計・税務の特例」
大企業には厳格な会計基準が適用されますが、中小企業には実務に配慮した特例が認められています。これらを理解し、無駄な事務コストを削減しましょう。
■ リース取引の処理 大企業ではリース取引は原則として「売買処理(資産計上)」が必要ですが、中小企業においては、賃貸借処理(経費処理)が認められています。これにより、資産をオフバランス化し、事務処理を簡素化できます。
■ 収益認識会計基準の適用除外 近年導入された新しい「収益認識会計基準」は、契約に基づく収益計上を厳密に求めますが、中小企業には強制適用されません。従来通りの企業会計原則に基づく処理(出荷基準など)を継続することが可能です。
■ 「中小企業者」の判定に注意 税制優遇を受けるための「中小企業者」の定義は、資本金1億円以下が基本ですが、大企業の子会社(資本金5億円以上の法人による100%子会社など)は「みなし大企業」として、中小企業向けの優遇税制(軽減税率や特別償却など)の対象外となるケースがあるため注意が必要です,。
4. 資産の流動化による資金繰り改善
保有している不動産などの資産をSPC(特別目的会社)などに売却し、その資産が生み出すキャッシュフローを裏付けに資金調達を行う「資産の流動化」も一つの手段です。 資産をバランスシートから切り離す(オフバランス化)ことで、総資産利益率(ROA)を向上させつつ、新たな資金調達ルートを確保できます,。
まとめ
中小企業の財務戦略は、「少人数私募債」や「種類株式」で柔軟に資金を集め、「経営強化税制」や「賃上げ税制」を活用して投資効率を高めることが鍵となります。また、自社が適用できる会計基準や税制特例を正しく理解することは、無駄なコストを抑え、会社を守ることにつながります。
会社の成長ステージに合わせて、最適な財務手法を選択していきましょう。
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