海外との取引が増えているにもかかわらず、経営管理はすべて「円」だけで行っていないでしょうか。
日本国内だけで仕入れ、国内だけで販売している会社であれば、円を中心に経営数字を見ることに大きな問題はありません。
しかし、
- 海外から商品や原材料を仕入れている
- 海外企業に商品・サービスを販売している
- ドル建て・ユーロ建てで取引している
- 海外子会社を持っている
- 海外のクラウドサービスや外注先を利用している
といった会社では、「円だけで考える経営」には限界があります。
なぜなら、売上や利益だけを円換算した数字で見ていると、為替によって本当の採算が見えなくなることがあるからです。
特に為替変動が大きい局面では、
「売上は増えているのに利益が増えない」
「利益は出ているはずなのに現金が残らない」
「海外事業が本当に儲かっているのか分からない」
という問題が起こりやすくなります。
海外取引のある中小企業では、これからの財務管理を「円換算した決算数字」だけではなく、外貨・為替・キャッシュフローまで含めて考える必要があります。
「円換算した売上」だけでは本当の業績が分からない
例えば、米国向けに年間100万ドルの商品を販売している会社を考えてみます。
売上数量もドル建て販売価格も前年とまったく変わっていなかったとしても、
1ドル=130円なら、
100万ドル × 130円=1億3,000万円
です。
一方、
1ドル=160円なら、
100万ドル × 160円=1億6,000万円
になります。
円ベースでは、売上が3,000万円増加しています。
しかし会社の販売力が30%近く伸びたわけではありません。
ドル建て売上は、前年と同じ100万ドルです。
つまり、この3,000万円の増加には為替による影響が含まれています。
ここを区別せず、
「海外売上が大幅に伸びた」
と判断してしまうと、経営判断を誤る可能性があります。
海外取引の業績を見る場合には、
事業そのものによって増えた利益なのか
それとも、
為替によって増えた利益なのか
を分けて考えることが重要です。
円安なら海外事業が儲かるとは限らない
「円安になれば輸出企業は儲かる」
とよく言われます。
しかし、中小企業の海外取引はそれほど単純ではありません。
例えば、ドル建てで売上を計上していても、
- 海外から原材料をドルで仕入れている
- 海外企業へ外注している
- 海外クラウドサービスを利用している
- 海外子会社へ資金を送っている
- 外貨建て借入金がある
といった場合、円安によってコストも増加します。
重要なのは、
「円安か円高か」ではなく、自社がどの通貨をいくら受け取り、どの通貨をいくら支払っているのか
です。
例えば、
ドル売上100万ドル
ドル仕入80万ドル
であれば、本当に為替の影響を受ける部分は単純な売上100万ドルではありません。
ドルの入金と支払いを相殺すると、
ネットでは20万ドル
です。
このように通貨ごとの入出金を整理するだけでも、会社が実際に抱えている為替リスクが見えやすくなります。
最も危険なのは「契約時」と「入金時」の為替が違うこと
海外取引では、契約してから実際に入金されるまで数か月かかることがあります。
例えば、
契約時:1ドル=160円
売上:50万ドル
だった場合、契約時には、
50万ドル × 160円=8,000万円
の売上を想定しているかもしれません。
ところが入金時に1ドル=150円になっていれば、
50万ドル × 150円=7,500万円
です。
為替だけで500万円変わります。
利益率10%の取引であれば、この差額は非常に大きな問題です。
そのため海外取引では、
「契約を取った」
「売上を計上した」
というだけでは十分ではありません。
受注時・請求時・入金時の為替まで含めて採算を見る必要があります。
為替差損益だけを見ても遅い
決算書には「為替差益」「為替差損」が表示されることがあります。
しかし経営管理としては、決算後に為替差損益を確認するだけでは不十分です。
なぜなら、それは基本的に結果を見ているだけだからです。
経営者が本当に知りたいのは、
「現在の為替水準が続いた場合、3か月後の利益はいくらになるのか」
「ドル円が5円動いたら年間利益はいくら変わるのか」
「今持っているドル債権はいくらの為替リスクを抱えているのか」
といった未来の数字ではないでしょうか。
これは決算書を眺めるだけでは分かりません。
外貨取引のある会社では、会計数字とは別に、経営管理用の為替・外貨管理資料を持つことが重要です。
海外取引のある会社が最低限把握したい5つの数字
海外取引がある会社では、少なくとも次の5つを定期的に確認することをおすすめします。
1.通貨別の売上
円換算した売上だけでなく、
- USD
- EUR
- CNY
- その他通貨
など、実際の取引通貨で売上を把握します。
「ドル売上そのものが増えたのか」
「単に円安によって円換算額が増えただけなのか」
を区別できます。
2.通貨別の支払い
売上だけではなく、海外仕入、外注費、クラウド利用料、ロイヤリティなどの支払いも通貨別に整理します。
これによって会社の実質的な外貨ポジションが見えてきます。
3.外貨建て売掛金・買掛金
将来受け取るドルと、将来支払うドルを把握します。
現在の為替レートだけを見るのではなく、今後発生する入出金まで管理することが重要です。
4.想定為替レート
予算を作成するときには、
「1ドル=○円」
という社内の想定為替レートを設定します。
実際の為替レートとの差額を見ることで、業績変化のうちどの程度が為替によるものなのか判断しやすくなります。
5.為替感応度
例えば、
ドル円が1円動いた場合、年間利益がいくら変化するのか
を把握します。
経営者にとっては、複雑な為替予測よりも、この数字の方が重要な場合があります。
「為替を予想すること」と「為替リスクを管理すること」は違う
為替管理というと、
「これから円安になるのか」
「円高になるのか」
を当てることだと思われることがあります。
しかし企業経営において重要なのは、為替相場を当てることではありません。
むしろ、
為替がどちらに動いても会社が大きなダメージを受けない状態を作ること
の方が重要です。
例えば、
1ドル=150円
1ドル=160円
1ドル=170円
という複数のシナリオを作り、
- 売上
- 粗利益
- 営業利益
- キャッシュフロー
がどう変化するのかを事前に確認します。
これだけでも、
「ここまで円高になると利益が厳しい」
「この為替水準なら販売価格を改定する必要がある」
「この水準になったら為替予約を検討する」
といった判断が可能になります。
これが為替を経営管理に使うということです。
海外取引では「売上」より「キャッシュ」を見る
さらに重要なのがキャッシュフローです。
海外取引では、
契約
↓
納品
↓
請求
↓
入金
まで長期間かかることがあります。
例えば売上を計上して利益が出ていても、海外企業からの入金が3か月後であれば、それまで会社には現金が入りません。
その間にも、
- 国内人件費
- 仕入代金
- 外注費
- 借入金返済
- 税金
などの支払いは続きます。
海外売上が急成長している会社ほど、
「利益は増えているのに資金繰りが苦しくなる」
という現象が起こることがあります。
そのため海外事業を見る場合には、
PL(損益計算書)だけでなく、外貨を含めた資金繰り表を見ること
が非常に重要です。
海外子会社も「円換算した数字」だけでは実態が見えない
海外子会社を持っている会社では、さらに注意が必要です。
例えば海外子会社の売上が、
前年:1,000万ドル
今年:1,000万ドル
だったとしても、円安になれば日本本社の連結・管理資料上では売上が大きく増えて見える可能性があります。
逆に、
現地通貨ベースでは売上が減少しているのに、円換算すると増収に見える
というケースもあり得ます。
海外子会社を管理するときには、
現地通貨ベースの業績
と
円換算後の業績
を分けて見る必要があります。
さらに、
- 売上高
- 粗利益率
- 人件費
- 在庫
- 売掛金
- 現預金
- 本社への送金
- 借入金
などを月次で確認する仕組みを作ることが重要です。
経営者が為替レートを毎日見る必要はない
ここまで読むと、
「毎日為替チャートをチェックしなければならないのか」
と思われるかもしれません。
その必要はありません。
経営者が見るべきなのはチャートそのものではなく、
為替が自社の利益と資金繰りにどのような影響を与えるのか
です。
例えば月次の経営資料に、
- 今月の平均為替レート
- 予算レートとの差
- 通貨別売上
- 通貨別仕入
- 外貨売掛金
- 外貨買掛金
- 為替変動による利益への影響
- 今後3~6か月の外貨入出金予定
を1枚にまとめるだけでも、経営判断は大きく変わります。
「決算のための数字」から「経営判断のための数字」へ
一般的な会計処理では、最終的に外貨取引も円へ換算されます。
もちろん決算・会計上は必要な処理です。
しかし経営管理まで円換算後の数字だけで行ってしまうと、
海外事業で何が起きているのかが見えなくなることがあります。
海外取引が増えてきた会社では、
「いくら売上があったか」
だけではなく、
「何ドル売ったのか」
「何ドル支払うのか」
「いつ入金されるのか」
「為替が動いたら利益はいくら変わるのか」
まで見る。
これが、海外取引を成長させるための財務管理です。
こんな会社は一度、外貨・為替管理を見直すべきです
次のような状況がある場合には、一度管理方法を見直してみる価値があります。
- 海外売上が増えてきた
- 海外仕入が増えている
- ドル建て取引の金額が大きくなってきた
- 円安なのに思ったほど利益が増えていない
- 為替差損益が大きくなっている
- 海外取引ごとの採算が分からない
- 海外子会社の数字が分かりにくい
- 将来の外貨入出金を一覧化していない
- 為替予約をすべきか判断できない
- 海外事業をさらに拡大しようとしている
海外取引が小さいうちはExcelと経験だけでも管理できるかもしれません。
しかし取引金額が大きくなるほど、為替変動による数百万円、数千万円単位の差が経営に影響する可能性があります。
ダヴィンチコンサルティングの海外事業・財務支援
ダヴィンチコンサルティング株式会社では、中小企業・オーナー企業の経営者に対して、海外取引を含む財務管理・経営管理の支援を行っています。
単に為替相場を予想するのではなく、
- 通貨別売上・原価の整理
- 海外取引の採算分析
- 外貨入出金の見える化
- 為替変動シナリオの作成
- 資金繰り予測
- 海外子会社の月次管理
- 海外事業の予算・事業計画
- 経営者向け財務レポート
- 海外事業のキャッシュフロー分析
などを通じて、経営者が海外取引の数字を判断できる仕組み作りを支援します。
「海外売上は増えているが、本当に儲かっているのか分からない」
「為替が動いたとき、自社の利益にどの程度影響するのか分からない」
「海外事業の数字を経営判断に使えるようにしたい」
という経営者の方は、一度現在の管理方法を確認してみてください。
円だけを見る経営から、通貨・利益・キャッシュフローを一体で見る経営へ。
海外取引が増えるほど、この違いが経営判断の差になっていきます。
海外取引・海外事業の財務管理についてお困りの場合は、ダヴィンチコンサルティング株式会社までお問い合わせください。
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